お金持ちのお嬢様・ましろが財力に物を言わせて堕落の限りを尽くす、新感覚ニート4コマ『ファーストクラスニートましろ』。
正方形の大ゴマを随所で用いるなど、他の4コマではあまり見られない構成も特徴で、掲載誌の「まんがライフ」(竹書房)でも度々センターカラーを飾る人気作。明日5月26日に、単行本1巻が発売されます。
引用:『ファーストクラスニートましろ』(「まんがライフ」2016年10月号93ページ)
暴走するましろと、クールなメイドの銀崎のやり取りが痛快なハイテンションギャグ4コマ。
そこで今回は、作者のえきあ先生にインタビューを敢行!
『ファーストクラスニートましろ』の制作秘話や、えきあ先生がマンガ家を志すきっかけになった出来事などを伺ってきました。
※インタビューには、えきあ先生のご友人のAさんにも同席していただきました。ご協力ありがとうございました。
えきあ先生のプロフィール
2015年、『トルネードよんじ』(芳文社「まんがタイムきららキャラット」)で商業誌デビュー。
『ファーストクラスニートましろ』(竹書房「まんがライフ」)が初連載、初単行本作品となる。
「月刊ガンガンJOKER」(スクウェア・エニックス)2018年6月号から、『ラブコメ(物理)』も新たに連載開始。
商業連載と並行して、コミティアを中心に創作同人誌も制作。
- サークル:梅皿テクニカ―
- Twitter:https://twitter.com/mfmfekia
同人誌で発表した作品を、4コマ形式に描き直し
――『ファーストクラスニートましろ』が連載されるようになった経緯を教えていただけますでしょうか?
えきあ先生(以下、えきあ):私の方から、竹書房さんに持ち込みをさせていただきました。「ましろ」は元々、コミックマーケットやコミティアで販売していた同人誌の作品なんです。
『ファーストクラスニートましろ』の原案になった同人誌『ぎじんか速報2』。
それまでは芳文社さんの4コマ誌で、ゲストとして別の作品をいくつか描いていたんですが、やはり「ましろ」に愛着があったので。タイミングがあればどこかで発表したいなと。
――4コマの出版社という部分にはこだわりがあった?
えきあ:そうですね。芳文社さんの仕事で初めて4コマを描いたんですが、4コマならではの見せ方があるというか、楽しいなと。同人誌版の「ましろ」はストーリー形式だったので、竹書房さんへの持ち込み用に4コマに描き直しました。
インタビューにご持参いただいた、持ち込み時の原稿『あまあまニートケーキ』。
――連載版と違って、ましろやメイドの銀崎でなく、銀崎の友人の豆田が主人公みたいですね。
えきあ:当時やりたかったことを全部詰め込んでいます。男女のラブコメも描きたいし、ましろのヤバさも描きたいし。今読むとゴチャゴチャしてるんですが……。
――「ましろ」に愛着があったとのことですが、えきあ先生といえば「おしる子ちゃん」というイメージが強い方も多いと思います。
えきあ:友人にも言われました(笑) 「なんで『おしる子ちゃん』を連載しなかったの?」って。
store.line.me
えきあ先生のサークルの看板キャラクター「おしる子ちゃん」。LINEスタンプも販売中。
「おしる子ちゃん」は、型にはめたくなかったんですよね。やっぱり、商業だと色々しがらみがあるじゃないですか。持ち込みに行ったときもそれは感じて。「おしる子ちゃん」は自分の中で大事に取っておきたい、自由なままでいさせてあげたいんです。
どのシーンを大ゴマにしようか迷うことも
――ネームを作るときに注意されていることはありますか?
えきあ:「1話の中でちゃんとテーマを決める」ことですね。時間が経ってからも、「ああ、あの話あったよね」と思い出していただけるような。ゲストのときに編集さんに言われて、それは今でも意識しています。
――編集さんとは、他にどのような話を?
えきあ:「『デフォルメ』っていうのは『適当に描くこと』じゃないからね」とか、「『起承転結』の『起』が長いからもっと短くして」とか。
竹書房さんで描き始めたころは、他の出版社さんでは経験したことがないくらいきつい言い方をされて怖かったですね。これが指定暴力団かと(笑)
特に他意はないが、竹書房のビルの写真。
だけど、最初のうちはわざと強めに指摘してくれていたみたいなんですよね。いつ電話がかかってくるかビクビクしながらも、ネームや絵を丁寧に描くようになって、そのおかげで上達することができました。今では本当に感謝しています。
――「ましろ」は、大ゴマの使い方が独特だなと感じます。
えきあ:それも編集さんのアイデアです。盛り上げたい部分は大ゴマにしようと。コマをつなげて縦長にする人はいますけど、正方形にする人って4コマでは少ないですよね。
引用:『ファーストクラスニートましろ』(「まんがライフ」2018年6月号115ページ)
渾身の大ゴマ。ちなみに失くしたのは、男キャラの絵が描かれた抱き枕。
「どこを大きくすればいいんだろう」って苦労することもあるんですが、いいものが描けたときは達成感があります。先月号(2018年6月号)の、ましろがトイレに座っているコマもお気に入りですね。
――大ゴマが入ると、4コマというよりは1ページマンガのようになりますよね。
えきあ:なので「ましろ」では、4コマ1本単位でなく、1話全体で起承転結のバランスを考えるようにしています。
私も最初は、ひとつひとつの4コマが面白ければいい、最後のページで読者に「面白かった」と満足してもらえたらいいと思っていたんです。でも、編集さんから大ゴマのアイデアを聞いて、そういう描き方もあるんだと気づかされました。
ましろの絵を描いて送ってくれる方がいるとうれしい
――作画の面ではいかがでしょうか?
えきあ:負けず嫌いなので、昔の自分よりはうまいものを描きたいといつも考えています。みなさん気を遣って「そんなことないよ」って言ってくださるんですが、昔から絵を描くのが好きだった割に、上達してないな……と。
――絵は、デジタルで描かれているのでしょうか?
えきあ:はい。アナログで細かいところまで丁寧に描いている人を見ると、自分もこのくらいは描かないとって身が引き締まります。デジタルで適当に描くと丸分かりなんですよね。同人誌の「ましろ」の絵も、今見ると恥ずかしいです(笑)
――読者の方からはどのような反響をいただいていますか?
えきあ:デフォルメしたましろの絵を描いて送ってくださる方が結構多くて、それは本当にうれしいですね。描きやすいんでしょうか(笑) もちろん、「面白かった」と言っていただけるだけでも励みになります。
引用:『ファーストクラスニートましろ』(「まんがライフ」2017年7月号60ページ)
ぬいぐるみに混じっても違和感がない、デフォルメのましろ。
――えきあ先生の中で、印象に残っている回はありますか?
えきあ:ゲスト最終話(8話)の「コタツ回」ですかね。ここまで描いてきたんだから絶対に連載につなげようと、私も編集さんも必死で……。泣きながらネタ出しをした思い出があります。
引用:『ファーストクラスニートましろ』(「まんがライフ」2017年2月号100ページ)
ゲスト最終話のコタツ回。勢いだけで描いたように見えるネタにも、その裏には多くの試行錯誤がある。
ましろがキャンプファイヤーをする展開も、最初はマッチでコタツが燃えるくらいの内容だったんですが、「これじゃインパクトが薄い」とリテイクをもらって、あんなことに(笑)
「ロールケーキの擬人化」という部分は、連載版ではアピールしていない
――キャラクターについてお伺いします。「ましろ」の中で、えきあ先生が一番好きなのは誰でしょうか?
えきあ:全員好きですね。同人誌時代からの付き合いですし、どの子にも愛着があります。最初は豆田がお気に入りだったのですが、今は平等というか、みんな我が子のような感じです。
――ましろたちに、モデルはいるのでしょうか?
えきあ:いえ、特にモデルはいません。ましろはロールケーキ、銀崎はフォークと、モノから各キャラの外見を考えていきました。ちなみに、豆田はコーヒーをイメージしています。
引用:『ファーストクラスニートましろ』(「まんがライフ」2016年6月号49ページ)
フォークから着想を得て生まれた銀崎。ツリ目やクールな性格に、その面影が伺える。
――擬人化したキャラクターだということは、雑誌では言及されていませんよね。
えきあ:今の編集さんに言われたんです。「これは擬人化ではないですよね?」と。私の中では完全に擬人化のつもりだったので、「なんで?」と思ったんですが。どうも、私が考える擬人化と、他の人が考える擬人化の定義が違うみたいで。
同人誌版のタイトルは「ふわふわニートケーキ」、持ち込み版は「あまあまニートケーキ」。連載版では「ケーキ」の言葉がなくなっている。
えきあ:私が作るキャラクターは、モチーフから見た目など表面的な部分をお借りしているんですが、それだけでは擬人化じゃないだろうということらしくて。女性と男性というか、「刀剣乱舞」と「艦これ」の違いと言った方がいいのかもしれませんね。
なので、擬人化という設定は省いてと編集さんに言われたので、連載版では特にアピールしていません。「なんかロールケーキっぽい格好をしてるな」くらいに思っていただければ。
別の雑誌で連載していたら、「ましろ」はラブコメになっていたかも
――ましろが23歳なのには驚かされました。高校生くらいだと思っていたので……。
えきあ:その方がギャップがあって面白いかなと(笑) ちなみに、銀崎と豆田も23歳です。同人誌だとふたりは26歳なんですが、ましろとタメの方がインパクトがあると思って、編集さんには特に相談せずに変えました。
引用:『ファーストクラスニートましろ』(「まんがライフ」2016年12月号48ページ)
身の回りの世話を他人に任せ、布団にくるまって一日中ゲームに興じる23歳。
――ギャップというのは、いつも意識されているんですか?
えきあ:はい。人間って絶対、表と裏があると思うんです。お金持ちの人たちも、テレビに映っているときは上品ですけど、家に帰ったら私たちと同じようにダラダラしているんじゃないかと。ましろにも、そういうイメージを重ねているのかもしれませんね。
――ましろは、同人誌版ではまだ女の子っぽさがありますよね。
えきあ:持ち込み版でも、割と豆田を男として見ているんですよね。銀崎と三角関係になるのかな……? という。
人間味があって女の子っぽい、持ち込み版のましろ。今は……。
別の出版社さんに持ち込みに行ったときも、「もっと恋愛要素をアピールした方がいい」と言われました。その雑誌のカラーだったんだと思うんですが、もしその雑誌で連載することになっていたら、「ましろ」はラブコメになっていたかも。
――今はラブコメにするつもりはない?
えきあ:今は、どれだけましろを動き回らせられるかを考えています。編集さんとの打ち合わせでも、「もっと動物っぽい感じで」と指摘を受けたりして。「人間」や「女の子」という単語が出てきません(笑)
子どものころ読んでいた『ぼのぼの』と、いま同じ雑誌で
――えきあ先生ご自身についてもお聞かせください。子どものころに読んでいたマンガは何でしょうか?
えきあ:実は、中学生まではマンガをほとんど読んでいなかったんです。家にマンガがほとんどない環境で育ったので。読むよりも、自分で描く方が好きな子どもでした。でも、いがらしみきお先生の『ぼのぼの』だけは読んでいましたね。
たしかアニメから入って、当時は「シマリスくんの声がかわいい」くらいにしか思っていなかったんですが、よく読むと内容は哲学的で……。その『ぼのぼの』と、今まんがライフで一緒に連載させていただいているのは、不思議な気持ちですね。
――マンガやアニメに本格的に触れるようになったのは中学生から?
えきあ:はい。友達の影響で、こげとんぼ*先生がキャラクターデザインを担当された『デ・ジ・キャラット』シリーズにハマりました。『ぴたテン』や、『ちっちゃな雪使いシュガー』のアニメも観て、ゲーマーズにも行くようになって。オタクまっしぐらですね(笑)
――マンガ家を志したのはいつごろからでしょうか?
えきあ:昔から「マンガ家になりたい」とは思っていて、小学校の卒業文集にも書いていましたね。当時はクラスメイトを「擬獣化」したキャラクターをたくさん描いていたので、これだけキャラがいたらマンガ作れるでしょ? と。
――子どものころからの夢を叶えられたわけですね。
えきあ:どうなんでしょう……。小学生って、絵を描くのが好きな子はみんな「マンガ家になる!」って言うじゃないですか。私もそのくらいの気持ちで、持ち込みをしたり賞に応募したりはしなかったんです。
――そこからどのようにしてマンガ家に?
えきあ:絵を描くのはずっと好きだったので、イラストレーターの仕事をしようと、高校卒業後は美術系の専門学校に入りました。でも、本の挿絵とかって、極論を言えば「別になくてもいい」ものじゃないですか。
そうした中で、必要とされる、誰にでも見てもらえる絵を描いていく自信がなくて……。絵を仕事にするのは向いていないなと思って、趣味で続けていけばいいかなと。専門学校を卒業してから5年くらいは、ずっとウダウダしていましたね。
多くの人のおかげで、マンガ家になれた
――転機になったのは?
えきあ:アルバイト先の先輩に、自分の同人誌を見せたことでした。画材屋さんだったので、同人誌を作っていたり、実際に商業誌で描いている方が多かったんですよね。そしたら、「持ち込みとかしてみないの?」と言われたんです。
www.pixiv.net
コミティア107で発表された『冷ごはんが温まるまで』。見本誌読書会アンケートで1位になり、えきあ先生の飛躍のきっかけとなった。
最初に持ち込みに行った出版社さんでは、少しアドバイスをもらっただけで原稿を返されてしまいました。だけど、それを踏まえて描き直したものをコミティアに出したら、読者アンケートで1位になって……。
まさか、こんなに評価していただけるとは思っていなかったので、自信になりました。「マンガ家、なれるかも」と思うようになったのはそこからですね。
――マンガ家を目指している方に、えきあ先生から助言するとしたら?
えきあ:編集者さんなど、色々な人に作品を見せて、アドバイスをもらうことでしょうか。思ったような反応が返ってこないと凹みますが、自分だけだと気づけないところも教えてもらえますし。
私の知り合いにもマンガ家志望の子がいたんですが、コミティアの出張編集部に持ち込みに行ったらマイナスなことしか言われなかったのがショックで、もう辞めようって。それで辞めちゃったらもったいないですよね。
――縁がなかった編集さんの言葉も力になっている。
えきあ:まあ、「あのとき私を切った奴、後悔させてやる!」という反骨心で描いている部分もあります(笑) 竹書房さんも最初はそのつもりでしたが、連載できて、単行本も出せて、本当によかったです。
――最後に、読者の方にメッセージをお願いいたします。
えきあ:マンガを描いているときは作るのに集中していて、本当に面白いのか分からなくなることが多いんですが、あとで読み返すと「めっちゃ面白いな……」って思うんですよね(笑)
年齢、男女問わず読めて笑ってもらえる作品になっているはずなので、雑誌を買っていない方も単行本を手に取ってもらえたらうれしいです。
――ご友人様からも何か一言。
ご友人のAさん:えきあちゃんは小学生のころから絵がうまくて、マンガ家になるという夢も叶えて、本当に尊敬しています。「ましろ」の単行本は、自分用、布教用、職場に置く用の3冊買うつもりです。みなさんもぜひ!