古戸蛍。小学4年生にして身長170cmと、育ち盛りにもほどがある女の子。
ただし本当に背が高いだけで、大人も顔負けのスタイルをしているわけでも、特別運動神経が良いわけでもない。
むしろ本人は背の高さをコンプレックスに感じていて、いつも猫背気味で下を見ながら歩いている。
『おおきなのっぽの、』は、そんな蛍と彼女のクラスメイトたちがおりなす、どこか懐かしい日常4コマ。
あとがきによると、数年前に作者の柴さんが目撃したのっぽな小学生が蛍のモデルになったという。
だからなのか、蛍のキャラクターにはリアリティがあり、こういう子が本当にいそうと思わせる説得力がある。
実際背の高さを除けば、蛍はどこにでもいる普通の小学生だ。
170cmの女性がランドセルを背負っていてもそれほど違和感がないのは、背が高い分、年相応な言動の子供っぽさが目立つからだろう。
やけに背が高い女子は確かに、自分の小学校時代にもクラスに1人はいたと思う。
いじめとまではいかなくても、そうした子は得てしてからかいの対象になってしまいがちだが、この作品にそのような描写は存在しない。
蛍の身長を題材にした話は多いが、そのことを指摘して蛍を傷つけようとする登場人物はいない。
給食の量が少なければもっと盛ろうかと心配され、図書館で友達と宿題をしていれば年下の子に勉強を教えてあげていると解釈される。
4コマとしての面白さは保ちつつも作品全体を通して優しさにあふれていて、昔ながらの4コマが好きな人にも、最近の4コマが好きな人にもおすすめできる。
柴さんの作品では「白衣さんとロボ」も好みだが、個人的には最初に読んだこの作品の印象がより大きかった。
思わず息を呑むような綺麗な絵でもなければ、4コマの概念を覆すような斬新な手法を取り入れているわけでもない。
とにかく丁寧に、読みやすい絵で分かりやすい話を描こうとする姿勢に好感が持てる
柴さん1人に4コマの未来を託すつもりはないが、こういう人が描き続けてくれる限り、4コマ界は安泰だと思う。